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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    長命だった父と、死の淵から
    よみがえった母との間に誕生

     1987年4月10日、アイネスフウジンは北海道浦河町の中村幸蔵さんの牧場で生まれた。父シーホーク、母テスコパールという血統だった。

     1963年にフランスで生まれたシーホークは現役を引退後、アイルランドで種牡馬になり、1974年1月、11歳の時に日本に輸入された。アイルランド時代に残した産駒からは、ブルーニ(英セントレジャー)など数多くの活躍馬が誕生した。

     1982年にモンテプリンスが天皇賞(春)を制し、初めて八大競走の勝ち馬になった。さらに1984年にはモンテプリンスの全弟であるモンテファストが天皇賞(春)で1着となり、兄弟による天皇賞制覇を成し遂げた。

     1989年にはウィナーズサークルがダービー馬となった。アイネスフウジンのダービー制覇はシーホーク産駒の2年連続ダービー優勝でもあった。23歳の時に種付けして誕生したアイネスフウジンがダービー馬に輝いた。ダービー馬の父としては最高齢記録として残る。

     アイネスフウジンの母テスコパールは競走馬になることができなかった。幼いころに生死の境をさまようほどの下痢に見舞われ、獣医師も見放したという。しかし中村幸蔵さんの父吉兵衛さんはあきらめなかった。いったんは診療所に預けたテスコパールを牧場に連れ戻し、好きなだけ飼い葉と水を与えた。すると、やせ衰えていたテスコパールはみるみる体調を取り戻した。

     5歳になった1981年に初仔を出産すると、その後も毎年子どもを産み、7年目にアイネスフウジンを送り出した。長命だった父シーホークと死の淵からよみがえった母テスコパールとの間に誕生したアイネスフウジンはすくすくと育っていった。この馬に注目したのが美浦トレーニング・センターに厩舎を構える加藤修甫調教師だった。当歳のアイネスフウジンを見て、すぐに管理することを決めた。

     1989年9月10日、アイネスフウジンは中山競馬場でデビュー戦を迎えた。鞍上は中野栄治騎手。引退まですべてのレースで手綱を取ることになる主戦だ。

     芝の1600㍍戦。レースは1番人気の逃げ切りで決まり、2番人気だったアイネスフウジンは5馬身差の2着だった。2戦目は9月23日の中山競馬場。同じく距離1600㍍の芝コースだった。6番人気の伏兵にかわされ、1番人気だったアイネスフウジンはクビ差の2着。3着とは7馬身の差があった。

     およそ1カ月後の10月22日、アイネスフウジンは東京競馬場の未勝利戦に出走する。1番人気に応え、鮮やかな逃げ切りを決め、初白星を手にした。

     12月17日、加藤調教師は未勝利を抜け出したばかりのアイネスフウジンを中山競馬場の芝1600㍍で行われるGⅠ朝日杯3歳S(現朝日杯フューチュリティS)へと向かわせた。15頭立てのレースでアイネスフウジンは5番人気にすぎなかった。

     レースは超のつくハイペースとなった。7枠12番からスタートしたサクラサエズリが迷うことなく先手を奪う。内からアラカイセイ、外からアイネスフウジンがサクラサエズリを追う。

     サクラサエズリが作り出したラップは12秒1-10秒7-10秒9と最初の3ハロンでは33秒7を刻んだ。中間点の800㍍通過が45秒1、1000㍍は56秒9を記録した。3コーナー手前からライバルたちはサクラサエズリについていくことができなくなった。ただ1頭、外側から並びかけたのがアイネスフウジンだった。

     最後の直線、アイネスフウジンは逃げ込みをはかるサクラサエズリを力でねじ伏せ、1着でゴール。勝ちタイムは当時の2歳レコード、伝説の馬マルゼンスキーがマークしたものに並ぶ1分34秒4だった。

     30年後の現在、2歳時に1マイルを1分34秒台で走る競走馬は珍しくないが、当時の記録では、アイネスフウジンとサクラサエズリ(2着で1分34秒8)以前に8頭しかいない希少な実績だった。

     そんな記録を残したのはマルゼンスキー、コーネルランサー、スルガスンプジョウ、ロードキルター、シリウスシンボリ、メジロラモーヌ、サッカーボーイ、トウショウマリオという面々である。2頭のダービー馬、1頭のGⅠ馬と三冠牝馬に加え、3頭の重賞勝ち馬が含まれることを考えれば、アイネスフウジンの将来に明るい兆しが差したレースであった。

     アイネスフウジンはこの年の最優秀3歳牡馬(現JRA賞最優秀2歳牡馬)に選ばれた。付け加えれば、朝日杯でアイネスフウジンの2着だったサクラサエズリは最優秀3歳牝馬(現JRA賞最優秀2歳牝馬)に選出された。

    1989年 朝日杯3歳S ● 優勝 ハイペースで逃げるサクラサエズリを力でねじ伏せて勝利。勝ちタイム1分34秒4は、マルゼンスキーの記録に並ぶ好時計©JRA

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