競馬場レースイメージ
競馬場イメージ
出走馬の様子
馬の横顔イメージ

story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    距離を変えての
    サクラバクシンオーとの二連戦

    1994年 スワンステークス ● 2着 夏の猛暑の影響で、始動が遅れての前哨戦。快足サクラバクシンオーに屈したが、ここから調子を上げていく©JRA

    すべての写真を見る(9枚)

     その後ノースフライトは放牧に出て休養する。秋の目標はマイルチャンピオンシップ。そのステップレースとして選ばれたのは10月の芝1400㍍戦スワンステークスだった。ノースフライトはそれまで1400㍍戦を走ったことがない。ここには前年のスプリンターズステークスの覇者サクラバクシンオーが出走してきて1番人気。ノースフライトは2番人気と、スプリント王対マイル女王の対決にファンは沸いた。

     レースではサクラバクシンオーが2番手につけ1分19秒9のレコードで駆け抜ける。ノースフライトは中団でおっつけ気味の競馬。4コーナーで少し包まれるような展開になり、直線だけでよく追い上げたが、1馬身4分の1及ばなかった。

     そして11月20日、最後のレース、マイルチャンピオンシップを迎える。距離が200㍍延びれば主役は交替だ。ファンの気持ちは一つになってノースフライトがサクラバクシンオーを抑え、1・7倍の圧倒的1番人気に推された。

     フジワンマンクロスがハナを切ってレースが始まった。サクラバクシンオーは3番手。ノースフライトはそれを見る形で5番手と先行。先に動いたのはやはりバクシンオー。4コーナー手前で先頭に並びかけていった。ノースフライトもそれを追う。直線に向いて先頭を行くバクシンオーに残り300㍍でノースフライトが追いつき、差し返そうとするバクシンオーと追いくらべ、追い抜く。ゴールでは決定的な1馬身2分の1差をつけてノースフライトが勝ち、引退の花道を飾った。タイムはコースレコードの1分33秒0。同じ年に春秋のマイルGⅠを制したのはニホンピロウイナー以来2頭目である。

     こうして11戦8勝2着2回というほぼパーフェクトな戦績を残して、あっさりとノースフライトは北海道の故郷、大北牧場へ帰っていった。マイル戦だけに限れば5戦全勝、うちGⅠ2勝という成績は、一年半という競走生活の短さを思うと驚異的な記録である。しかし加藤敬二調教師はあるインタビューで次のように語っている。

    「これがノースフライトにとって最高潮、という思いでレースを使ったことはなかったんです。……この馬は、もっともっとよくなってくるのでは、という思いが常にありました。素晴らしい成績を残してくれましたが、完成したという気はしなかったんです」

     いったいほんとうはどれだけ強かったのか、あるいは強くなれたのか。もう少し先まで、あの天才少女の行く末を見たかったと思うのは、欲張りな夢だろうか。

    1994年 マイルチャンピオンシップ ● 優勝 ライバルをマークして好位で迎えた直線では、安田記念の再現のように早々に抜け出す。ラストランをレコード勝ちで飾った©M.Watabe

    すべての写真を見る(9枚)

    ©H.Watanabe

    すべての写真を見る(9枚)

    ノースフライト NORTH FLIGHT

    1990年4月12日生 牝 鹿毛

    トニービン
    シャダイフライト(父ヒッティングアウェー)
    馬主
    (有)大北牧場
    調教師
    加藤敬二(栗東)
    生産牧場
    大北牧場
    通算成績
    11戦8勝
    総収得賞金
    4億5809万4000円
    主な勝ち鞍
    94マイルチャンピオンシップ(GⅠ)/94安田記念(GⅠ)/94マイラーズC(GⅡ)/ 94京都牝馬特別(GⅢ)/93阪神牝馬特別(GⅢ)/93府中牝馬S(GⅢ)
    JRA賞受賞歴
    94JRA賞最優秀4歳以上牝馬

    2022年4月号掲載

    谷川 直子 NAOKO TANIGAWA

    1960年生まれ、兵庫県出身。筑波大学第二学群比較文化学類を卒業後、「詩と思想」「現代詩手帖」などの雑誌編集に携わる。著書に「競馬の国のアリス」「芦毛のアン」「注文の多い競馬場」など(高橋直子名義)。

    04
    04