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出走馬の様子
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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    歴史を動かした中央挑戦
    ゴール後それぞれの想い

    1999年 フェブラリーS ● 優勝 1999年初戦は得意のマイル戦、フェブラリーSに出走。中央の猛者たちに2馬身差を付けて史上初の地方所属馬によるJRAGI勝利の偉業©H.Watanabe

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     陣営は満を持して、中央遠征を決断した。舞台は東京競馬場の1600㍍。ダート最高峰のGI、フェブラリーステークス。明け5歳のメイセイオペラは、柴田厩務員と共にテンコー・トレセンへ向かった。坂路調教に加えて、ダートコースで1600㍍の追い切りも行われた。メイセイオペラは異例のハード調教にへこたれず、真面目に走り切った。フェブラリーSの10日前には、茨城県の美浦トレーニング・センターへ入厩。環境が激変しても、メイセイオペラは落ち着いていた。一緒に寝転んで昼寝できるほど心を通わせた柴田厩務員がそばにいるから、安心して過ごせたのだろう。

     佐々木調教師と柴田厩務員はじっくりと話し合い、「なにか特別なことをするのではなく、自分たちのやり方で、オペラに合った調教をしてレースに向かおう」と決めていた。だから最終追い切りは、あえて水沢と同じダートコースで行った。最終追い切りに騎乗した菅原騎手は取材攻勢に目を回しつつ、「この出来なら、いい勝負ができるぞ」と手応えを感じた。

     99年1月31日、フェブラリーS当日の東京競馬場。第6レースにエキストラ騎乗した菅原騎手は、12番人気のハマクイーンを勝利に導いた。本番と同じダート1600㍍のレースを体感するための“リハーサル”を勝ったことで、菅原騎手や陣営はもちろん、メイセイオペラ応援団も気分上々。柴田厩務員は出張馬房で、メイセイオペラのたてがみを丁寧に、いつものように編み込んだ。

     1番人気は重賞4勝のワシントンカラーで、メイセイオペラは差のない2番人気。地方馬による快挙が期待されていた。その一方で、能力を疑問視する声も少なからず。「中央競馬の壁」を強調する評論家もいた。様々な喧騒をよそに、メイセイオペラは492㌔の馬体を艶やかに輝かせて、広大なパドックを堂々と歩いていた。菅原騎手はオペラに跨ると微笑を浮かべた。オペラは本当に度胸が据わっていて、騎手に安心感を与えてくれる馬なのだ。返し馬では、このコース特有の芝とダートの切れ目を何度も確認し、人馬の呼吸を合わせた。

     ゲートが開いた。快足牝馬キョウエイマーチがハナを切る。メイセイオペラは外目の5~6番手につけた。いつもより後ろだが、菅原騎手としては想定内の位置取り。4コーナーの手応えは抜群。鞍上は自分に言い聞かせた。

    「東京の直線は長い。坂の頂上あたりまで、ギリギリまで我慢だ」

     鞍上が我慢を重ねるなか、メイセイオペラは馬なりで2番手にポジションを上げた。残り200㍍、菅原騎手は満を持して追い出した。オペラは軽やかに先頭に立つと、一気に後続を突き放した。実況アナウンサーが叫んだ。

    ≪メイセイオペラやりました! 水沢の雄メイセイオペラ、見事フェブラリーステークス、中央のGIを制覇いたしました!≫

     菅原騎手はゴールの50㍍手前で勝利を確信し、早くもガッツポーズをしそうになったが、なんとかゴールまでこらえた。地方所属馬による中央GI初制覇という快挙は、それほどの完勝劇で成しとげられた。

     ゴールの瞬間、柴田厩務員は頭が真っ白。快挙の実感はなく、「よかったなあ」と、まるで他人事のような感覚だった。

     夫の遺影を抱き、スタンドでレースを見守っていた明子夫人は、天に向かって叫んだ。

    「あなたやったわよ。あなた夢が叶ったわよ!」

     水沢競馬場にあるJRAの馬券売り場では、小さなモニターに大勢のファンがかじり付いていた。勝利の瞬間、みんなの歓喜が爆発した。

     菅原騎手は客席に近い芝コースに出て、観客にメイセイオペラの勇姿を見てもらおうと思った。ところが、出口の場所がわからない。仕方がないので、ダートコースを通っていくと……。

    ≪イ・サ・オ! イ・サ・オ! イ・サ・オ!≫

     誰かが発したイサオコールは、やがて大合唱となり、東京競馬場に響き渡った。

    1999年 帝王賞 ● 優勝 フェブラリーS後は地元のシアンモア記念勝利を経て帝王賞に。アブクマポーロ不在の舞台で力の違いを示した©K.Yamamoto

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    2000年 フェブラリーS ● 4着 連覇を狙った舞台ではウイングアロー(左橙帽)らに屈したが、一旦は先頭に立つ意地の走りを見せた(桃帽)©H.Watanabe

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    ©Y.Maeda

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    メイセイオペラ MEISEI OPERA

    1994年6月6日生 牡 栗毛

    グランドオペラ
    テラミス(父タクラマカン)
    馬主
    (有)明正商事
    調教師
    佐々木修一(岩手)
    生産牧場
    高橋啓氏
    通算成績
    35戦23勝(うち中央2戦1勝)
    総収得賞金
    4億9863万3000円 (うち中央1億1173万8000円)
    主な勝ち鞍
    99帝王賞(GⅠ)/99フェブラリーS(GⅠ)/98マイルチャンピオンシップ南部杯(GⅠ)/98マーキュリーC(GⅢ)/ 00・99・98みちのく大賞典(地方重賞)/99・98北上川大賞典(地方重賞)/99・98シアンモア記念(地方重賞)/ 97桐花賞(地方重賞)/97不来方賞(地方重賞)/97東北ダービー(地方重賞)
    表彰歴等
    99NAR年度代表馬,ダートグレード競走最優秀馬,4歳以上最優秀馬/16NAR特別表彰馬
    JRA賞受賞歴

    2022年3月号掲載

    井上オークス OAKS INOUE

    1977年生まれ、佐賀県出身。大学在学中のエッセイコンテスト優勝を機に、ライターとしてデビュー。2003年には優駿エッセイ賞で佳作入選をしている。現在は地方競馬を中心に「旅打ちライター」の肩書きで活動中。著書に「いま、賭けにゆきます」「馬酔い放浪記」。ペンネームは、自身が初めて万馬券を的中させた97年オークスに由来する。

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