story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 69
豪脚で菊花賞を大逆転勝利
ダンスインザダークの波瀾の道
2022年1月号掲載掲載
ローテーションに狂いが生じ
大目標でもまさかの結末
この弥生賞を受けて、皐月賞には絶対の自信を持って送り出すことができる、と橋口調教師は考えていた。そのはずだったのだが、皐月賞直前の月曜日にアクシデントは起きる。
平熱は37・9~38度のダンスインザダークの体温が、39度まで上がったのだ。このタイミングの熱発では、皐月賞は回避せざるを得なかった。デビュー前にダービーから逆算して立てていた計画が、ここで初めて狂ったのである。
幸い回復が早かったことから急遽出走を決めたトライアルのプリンシパルSで、ダンスインザダークは持ったままで大楽勝すると、いよいよ最大の目標であるダービーに臨むことになった。
この年から6月第1週に行われることになったダービーで人気を集めたのは、やはり皐月賞1、2着のイシノサンデーとロイヤルタッチ、そしてダンスインザダークの「SS三強」だった。その中でもダンスインザダークは1番人気に支持される。それだけ弥生賞の印象は強く、また「皐月賞も出られていたらこの馬だった」という印象を持った人が多かったのだろう。
橋口調教師自身も、このレースに絶対的な自信を持っていた。馬の力はもちろんのこと、状態も申し分なく、手綱を取るのは日本一の騎手・武豊である。勝利を確信して送り出した。
3番という内枠を引いたダンスインザダークは、逃げるサクラスピードオーの直後2番手から3番手につける積極策を採った。前半1000㍍の通過が1分1秒4というゆったりした流れの中、ぴたりと折り合ったダンスインザダークは気持ちよさそうに走った。
4コーナーも内ラチ沿いをロスなくまわると、満を持して前を行くサクラスピードオーを交わしにかかる。抜群の手応えで難なくこれを交わすと、残り200㍍では独走態勢を作ったように見えた。これこそまさに完璧なレース、絵に描いたような圧勝劇と思われたそのときである。
後ろから1頭の鹿毛馬が飛んできた。デビュー3戦目、重賞初挑戦のフサイチコンコルドだった。2頭の馬体があい、そしてフサイチコンコルドがクビだけ前に出たところがゴールだった。
この瞬間のことを、のちに橋口調教師は「何が起きたかわからなかった」と振り返っている。そして武騎手もまた、フサイチコンコルドが並びかけてきたとき「嘘だろ」と思ったという。
すべてが完璧に進み、確実にその手に掴んだと感じたダービーの栄冠が、するりと逃げてしまったのだ。
ダービーだけではない。実はダンスインザダークはダービーを勝ってイギリスのキングジョージVI世&クイーンエリザベスダイヤモンドSへ遠征する、という計画を立てていた。姉のダンスパートナーがオークス後にフランスに遠征、ロンシャン競馬場のヴェルメイユ賞に出走したのに続く挑戦のはずだった。しかし、この敗戦によってそれも断念することになったのである。
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