story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 67
ジャパンC史上最高評価の優勝馬
エピファネイアが導きし思い
2021年11月号掲載掲載
鞍上が悔やんだ春2戦
人馬一体となった菊花賞
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最大の敵は、自分自身。そんなエピファネイアのクラシック第一弾、皐月賞は、まさにそこが勝敗を分ける結果となった。1コーナーで「スイッチ」が入ってしまい、スタミナをロスしたエピファネイアは、直線では2歳王者ロゴタイプと競り合ったものの、半馬身遅れて2着。福永騎手は、あそこで掛かった差が最後に出てしまった、と悔やんだ。
続く大目標のダービーでも、エピファネイアは道中、行きたがった。鞍上の苦心の手綱にもかかわらず、力んだまま中団を追走。さらに3コーナーで躓いてバランスを崩す不運にも見舞われた。それでも直線は、まるで母シーザリオのオークスのように馬群を縫って進出したが、ついに先頭かというところで、さらに外からやって来たキズナの豪脚にわずかに屈した。福永騎手は「この馬の有り余る闘志をうまくコントロールできませんでした」と、半馬身の差を馬ではなく、自らの責とした。
そんなエピファネイアの歯車がすべて噛み合う瞬間が訪れたのは、夏を越した3歳秋のことだった。
課題に満点で回答する内容となった、秋初戦の神戸新聞杯。ハミを替え、舌を縛るなどさまざまな工夫を施した成果としての2馬身半差の差し切り勝ちに、福永騎手は「ダービーでできなかったことがやっとできた。こういうレースをするために牧場、厩舎のスタッフとみんなでやってきた」と声を弾ませた。
そして迎えた菊花賞、エピファネイアは、この馬がその能力をきちんと発揮したらどんなことになるのかを、これでもかと示してみせた。
福永騎手になだめられながら3番手につけたエピファネイアは、平均ペースの長丁場をぴたりと折り合って進む。直線を向いてもまだ鞍上の手は動かない。前を交わし、ぐんぐん差を広げると、最後は手綱を緩めながらゴール。2着には5馬身という大きな差がついていた。
結局、福永騎手は最後まで鞭は使わなかった。いわゆるノーステッキで、この「あかん馬」を制御しきってみせたのだった。
レース後、「エピファネイアと出会ってスキルアップできた」と語った福永騎手は、この5年後の18年、ワグネリアンでダービー初制覇。さらに20、21年もコントレイル、シャフリヤールで勝利し、歴代2位のダービー3勝をマークすることとなる。
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