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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    牡馬相手に低評価が続くも
    39年ぶりの偉業達成

    2005年 安田記念 ● 2着 初の牡馬相手のGIでもあり10番人気となるも、勝ち馬にタイム差なしに迫る好走を見せた(緑帽)©K.Yamamoto

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     4歳始動は5月都大路ステークス。久々のマイル戦だったが、まずまずのスタートを切るなど気性面の成長を見せながら、56㌔という斤量とスローペースにはまって5着。

     この一戦でマイル適性と成長力を疑われたスイープトウショウは続く安田記念では10番人気と一気に人気を落とした。だが春のマイル王決定戦はオープン特別とはまったく異なる厳しいラップが刻まれる。ローエングリンと香港のサイレントウィットネスが先行、前半800㍍は45秒6の淀みない流れになった。スイープトウショウは、一度使われたことで秋華賞のように馬群の外目を気分よさそうに走る。ローエングリンを競り落としたサイレントウィットネスを目標に外からバランスオブゲーム、馬群を縫ってアサクサデンエンが襲いかかる。スイープトウショウはバランスオブゲームのさらに外から飛んできた。牡馬たちの競り合いに最後に加わったスイープトウショウはアサクサデンエンの粘りに屈したものの、2着と大健闘。池添は徐々に調教など色々な課題をクリアし、牡馬相手でもしっかり末脚を使えたことに自信を深めた。

     次走は中2週の宝塚記念。安田記念でマイルは距離が短いと評されたスイープトウショウにとって、得意の中距離戦への出走だったが、安田記念2着で、かえって距離延長を疑われたか、牝馬のGI連戦が嫌われたのか、さらに人気を落とし、11番人気、単勝オッズ38・5倍でレースを迎えた。宝塚記念を走る段階では、素質馬であることは認めつつも、獲得タイトルは秋華賞ひとつ。相手は前哨戦の金鯱賞を勝ち、宝塚記念連覇を狙うタップダンスシチー、前年秋に古馬中距離GI完全制覇を遂げたゼンノロブロイ、前年のダービー2着ハーツクライなど強力牡馬ばかり。なにより牝馬の宝塚記念制覇は過去38年間なく、現在とは違い、牝馬が勝てないレースとされていた。ゆえに低評価もやむを得なかった。 

     前走でマイル戦を経験したスイープトウショウは、前半の行きっぷりが向上、目の前にリンカーン、内にゼンノロブロイをみる絶好位につけた。レースはタップダンスシチーが逃げたコスモバルクに残り800㍍標識付近で並びかける積極策。ロングスパート合戦になった。スイープトウショウは直線入り口で外に出てきたゼンノロブロイに併せる。その脚色は明らかに上回っていた。残り100㍍、果敢に先頭に立ったところに外からハーツクライが強襲。それを察知した池添が気を抜かせまいと左ステッキを振るう。最後はハーツクライをクビ差しのいで勝利。池添は大きなガッツポーズでスイープトウショウの強さをアピールした。

     エイトクラウン以来39年ぶりの牝馬による宝塚記念制覇という偉業は、同時にトウショウ牧場にとって、スイープトウショウの2代母の父にあたるトウショウボーイ以来のタイトルでもあった。スイープトウショウの宝塚記念勝利は、四半世紀以上の時を経て、名門牧場がつなげた奇跡のバトンだった。

     この年、エリザベス女王杯を勝ち、JRA賞最優秀4歳以上牝馬に選出。だが、翌年以降はケガがあり、スイープトウショウはますます調教を嫌がるようになった。ローテーションに狂いが生じながらも、エリザベス女王杯2年連続好走など大舞台で活躍したのち、現役引退。ふるさとのトウショウ牧場に戻った。

     名門牧場復活を託した希望、これを結実させた池添のスイープトウショウへの愛情は忘れられない。池添はどんなときもスイープトウショウが納得するまでじっと待った。予定通りに調教できず、仕上げに納得できない歯がゆさを感じながらも、それでも馬が動くまで待った。

     決して分かり合えたわけではないだろうが、池添はスイープトウショウを必死に受け入れた。人と人とは分かり合ったつもりになっても、真に分かり合えることは容易ではない。他人の心など読めるものではないのだ。だからこそ大切なことは、相手の気持ちを許し、受け入れることだ。池添がスイープトウショウの頑なさを許し、受け入れつづけた姿は、その尊さを我々に伝える。
    (文中敬称略)

    2005年 宝塚記念 ● 優勝 安田記念からさらに評価を落としながら(11番人気)、ゼンノロブロイら牡馬の一線級を自慢の末脚でねじ伏せた©H.Watanabe

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    2005年 エリザベス女王杯 ● 優勝 粘るオースミハルカをゴール前捉えGI3勝目(青帽)。その後は怪我もあったが6歳まで走り抜いた©F.Nakao

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    ©K.Yamamoto

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    スイープトウショウ SWEEP TOSHO

    2001年5月9日生 牝 鹿毛

    エンドスウィープ
    タバサトウショウ(父ダンシングブレーヴ)
    馬主
    トウショウ産業(株)
    調教師
    渡辺栄(栗東)→鶴留明雄(栗東)
    生産牧場
    トウショウ産業株式会社トウショウ牧場
    通算成績
    24戦8勝
    総収得賞金
    7億4482万4000円
    主な勝ち鞍
    05エリザベス女王杯(GI)/05宝塚記念(GI)/04秋華賞(GI)/ 06京都大賞典(GⅡ)/04チューリップ賞(GⅢ)/03ファンタジーS(GⅢ)
    JRA賞受賞歴
    05JRA賞最優秀4歳以上牝馬

    2021年10月号掲載

    勝木淳 ATUSHI KATSUKI

    1977年生まれ、東京都出身。築地マグロ仲卸店に勤務の傍ら、劇団で活動をする。2016年、築地仲卸の仲間との交流を描いた『築地と競馬と』で優駿エッセイ賞グランプリを受賞。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーライターとなる。現在、「優駿」、WEBサイトなどに寄稿。著書に「競馬 伝説の名勝負」(共著)。

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