story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 66
39年ぶり牝馬の宝塚記念制覇
スイープトウショウに寄り添いて
2021年10月号掲載掲載
転厩を機に手綱を取った池添
試練を糧に大胆な策
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3歳クラシックシーズンは冬の紅梅Sを勝利で飾り、幸先よくスタートを切ったのち、2月で引退する渡辺栄から一歳年上のシーイズトウショウを管理する鶴留明雄に引き継がれた。転厩初戦はトライアルのチューリップ賞。騎手も角田から鶴留の愛弟子である池添謙一に変更された。クラシック有力候補の転厩初戦というプレッシャーのなか、レース後に結果を出すつもりで乗ったと振り返った池添は、見事にスイープトウショウの末脚を引き出し、その重圧に打ち勝った。
だがここからスイープトウショウと池添に試練が訪れる。それはレースを後ろから進め、末脚にかける馬にとって宿命でもあった。差し馬は自らレースを支配できない。桜花賞は先行力があるダンスインザムードに、オークスではダイワエルシエーロの早め先頭という奇襲に屈し、春のクラシックは無冠で終わった。池添はレース後、スイープトウショウが馬場入りを嫌がり、思い通りの調教メニューを消化できないという歯がゆさを口にした。
そして秋の始動戦ローズSでは他力本願の競馬から脱却を図り、道中は中団の外目で積極的な競馬を試みる。ところが、いつもより早めに先頭に立ったため、最後は気を抜いてしまい、3着。最後の一冠である秋華賞に向け、新たな課題を残した。
しかし、このローズSの敗戦で池添は腹を決めた。自分が信じるべきはスイープトウショウの強みである末脚だと。秋華賞の舞台は先行有利の京都内回り2000㍍。飛ばす馬がいない組み合わせだったが、スイープトウショウは最初のコーナーを18頭中17番手で通過。自慢の末脚で前年の短距離GIを2勝したデュランダルの主戦も務める池添だからこそできる、大胆な待機策だった。案の定、前半1000㍍通過59秒9、GIとしては遅い流れになった。それでもスイープトウショウは動かない。残り800㍍からライバルたちが動き出しても、まだ後方待機。最終コーナーでも池添はスイープトウショウに手綱を委ねるようにし、馬群の大外を気分よく走らせる。そして最後の直線を迎えると同時に池添は一気に追い出し、溜めていたスイープトウショウのエネルギーを解放する。馬場の真ん中を踊るように滑らかに、そして力強く駆け抜けたスイープトウショウは、先に抜け出した2着ヤマニンシュクルに上がり3ハロンで0秒7も上回る驚異的な末脚を記録し、勝利。ようやく最後の一冠でGIタイトルを手に入れた。
トウショウ牧場にとっては1991年桜花賞シスタートウショウ以来のGI。名門復活を託した希望が見事に秋の京都で大輪を咲かせた。レース後、池添は泣いた。GIの大舞台、遅い流れで後方待機という大胆ながら重圧がかかる騎乗をやり遂げた安堵、さらに恩師である鶴留の馬でGIを勝つという夢を達成した喜びを隠しきれなかったのだ。
しかしスイープトウショウと池添にとっての試練はまだ続く。慢性的なゲート難を解消すべく課したゲート練習と調教の両立にストレスを感じたスイープトウショウはエリザベス女王杯では最後の直線で手前を替え、実力を出せずに5着敗戦。3歳シーズンを終えることになる。
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