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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

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今ならできたこともあるのでは
その思いを胸に

2001年 ジャパンC ● 優勝 O.ペリエ騎手をパートナーに、当時の最強馬テイエムオペラオーをクビ差封じた。 日本調教の3歳馬として史上2頭目のジャパンC制覇©H.Watanabe

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 ダービーの後、GI馬となったジャングルポケットとクロフネは、揃って横手厩舎に帰ってきた。クロフネが秋競馬に向けての英気を養っていたのとは対照的に、ジャングルポケットは以前から問題を抱えていた蹄の状態がさらに悪化していた。

「蹄鉄を打てないと思ったほどに、蹄がすり減っていました。蹄踵もないような状態で、こちらに戻ってきてから1カ月半ほどは、何もできずにいました」

 蹄が伸びてきてからようやく乗り出しを再開するも、満足のいく状態での出走が叶わなかった札幌記念では3着に敗戦。その後、牧場での調整を挟んで出走した菊花賞も4着に敗れてしまうが、次走がジャパンCだと知った時、横手は驚きとともに、蹄がいい状態で出走できれば、チャンスはあると見ていた。

「コースや距離適性だけでなく、3歳ということで他の馬より、斤量も恵まれています。その上、菊花賞も負けていたので、他の馬からもマークされないのではとも思いました」

 当時の最多勝利記録となるGI7勝をあげていたテイエムオペラオーが1番人気に支持され、ライバルのメイショウドトウ(3番人気)もメンバーに名を連ねた一戦。ジャングルポケットは2番人気の評価を受けた。

 前日のジャパンCダートでは、クロフネがレコードタイムで優勝していた。けた違いの強さを見せた僚馬の勢いを受け継いだかのように、ジャングルポケットは先に抜け出したテイエムオペラオーに外から迫り、ゴール寸前で交わしていく。

「古馬をものともしないレース内容にびっくりしましたし、夏を牧場で過ごした2頭が、秋競馬で最高の結果を残してくれたことは、調整を任されてきた自分たちにとっても自信になりました」

 この勝利もあり、3歳で年度代表馬にも選ばれたジャングルポケット。だが、意外なことに横手にとって思い出のレースは、GI制覇を成し遂げたダービーでもジャパンCでもなく、マンハッタンカフェの2着に敗れた4歳時の天皇賞(春)だという。

「負けはしましたが、強いレースを見せてくれたと思いますし、なによりも古馬になってから、GIで勝ち負けできる馬となっていたことが嬉しかったです」

 だが、宝塚記念を前に、脚部不安を発症したジャングルポケットは三度、横手厩舎へと戻ってくる。

「休養の原因となった脚元の腫れもありましたが、それ以上の問題と言えたのが、やはり蹄でした。牧場に戻ってきてからは最も状態が酷く、いい状態に戻るまでは、全く何もできませんでした」

 ギリギリまで牧場での調整を続けた後、連覇を目指してジャパンCに出走するも5着。そして、有馬記念でも7着に敗れた後、翌年の1月に引退が発表される。

「今ならば、当時のジャングルポケットに対して、まだ何かをしてあげられたとの思いがあります。それが叶っていれば、また違った競走生活を送らせられたのかもしれません」

 ジャングルポケットを送り出した後も、横手はキングカメハメハ、ディープインパクトと、2年続けてダービー馬に携わっていく。調教主任となってからは、牡馬の3厩舎を管理しており、ノーザンファーム生産馬が12頭出走した今年の日本ダービーにも、厩舎の管理馬が名を連ねた。

 それにもかかわらず、横手はこの成績に安穏としていないという。

「こうしてジャングルポケットのことを話していると、全く結果が出ていなかった頃の牧場の姿を思い出します。今でもちょっとでも気を緩めたら、全く走らなくなってしまうという、危機感は常に持っています」

 横手にとって、そして当時のノーザンファームを知るスタッフにとっても、今や日本のトップに上り詰めた名門牧場の礎を築くとともに、彼らを初心に戻してくれる馬。その馬こそがジャングルポケットなのかもしれない。    (文中敬称略)

2002年 天皇賞(春) ● 2着 武豊騎手とのコンビで外から追い上げるもクビ差及ばず(緑帽)。その後は怪我に見舞われ同年有馬記念(7着)を最後に引退©JRA

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©F.Nakao

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ジャングルポケット JUNGLE POCKET

1998年5月7日生 牡 鹿毛

トニービン
ダンスチャーマー(父Nureyev)
馬主
齊藤四方司氏→吉田勝已氏
調教師
渡辺栄(栗東)
生産牧場
ノーザンファーム
通算成績
13戦5勝
総収得賞金
7億425万8000円
主な勝ち鞍
01ジャパンC(GI)/01日本ダービー(GI)/01共同通信杯(GⅢ)/00札幌3歳S(GⅢ)
JRA賞受賞歴
01JRA賞年度代表馬、最優秀3歳牡馬

2021年9月号掲載

村本浩平 KOHEI MURAMOTO

1972年生まれ。北海道出身。大学在学中に第1回Numberスポーツノンフィクション新人賞を受賞。競走馬育成牧場勤務の後、現場で培った知識を生かし、馬産地ライターとして活動を始める。現在は「優駿」などの競馬雑誌やWEBサイトで執筆。また、北海道日本ハムファイターズを始め、北海道で行われている様々なスポーツに活躍の場を広げている。

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