story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 64
メジロ復活への孝行娘
メジロドーベルと名門の奮励
2021年7月号掲載掲載
牡馬相手には苦戦するも
譲れなかった「女王」の座
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秋初戦として出走したのはオールカマー。初めての古馬、しかも牡馬との対戦にもかかわらず、単勝2・1倍の1番人気。出遅れ加減のスタートで後方からとなり、すぐにペースが落ち着くと、スタンド前の大歓声で悪い癖が出た。しかし吉田豊は掛かったメジロドーベルを無理に抑えようとせず1コーナーで先頭へ。意外にも逃げる展開となったが、そのまま後続を寄せ付けず押し切った。
秋華賞は、春の二冠とは違い外国産馬も出走可能。それゆえNHKマイルCを勝ったシーキングザパールとの再戦が期待されたが休養のため不在。ローズSを逃げ切って臨んできたキョウエイマーチと、三たびの二強対決となった。
しかし両馬ともに不安視される材料があった。距離に不安があるキョウエイマーチは2番手から、折り合いに不安があるドーベルは、しかし中団馬群のうしろで流れに乗った。4コーナーで先頭に立ったキョウエイマーチに対し、3コーナー過ぎで大外に持ち出して追い込んだドーベルは、並ぶ間もなく交わし去って2馬身半差。横綱相撲ともいえる完勝だった。
3歳女王となったドーベルは晩成のメジロ血統らしく、4歳も、5歳も現役を続けた。とはいえ当時、古馬の牝馬限定GIはエリザベス女王杯のみ。牡馬との対戦では苦戦を強いられることもあった。
4歳春の大阪杯では、前年に牝馬ながら年度代表馬となったエアグルーヴに3/4馬身差で2着。秋は府中牝馬Sで58㌔を背負って勝った。そして臨んだエリザベス女王杯は、スローペースに馬群の中で何度も掛かるような素振りを見せたが、直線ラチ沿いから抜け出して勝利。断然人気に支持されていた1歳上のオークス馬エアグルーヴを3着に、この年のオークス馬エリモエクセルを5着にしりぞけ、3世代のオークス馬対決を制した。
5歳を迎えたドーベルは、初戦の中山牝馬Sで2着に敗れたあと、外傷を負って秋まで休養。毎日王冠6着から臨んだエリザベス女王杯では、前年と同じように中団の内を進み、やはり何度か掛かるところがあった。4コーナーまで馬群に囲まれたままだったが、それをさばいて堂々と抜け出した。2着のフサイチエアデールには3/4馬身差だが、着差以上の強さ。これが引退レースとなり、デビューからすべてのレースで鞍上にあった吉田豊は涙を浮かべていた。
その翌週には、東京競馬場で引退式が行われ、生まれ故郷のメジロ牧場へと旅立った。
2歳時から4年連続のGI5勝は、牝馬としては当時の単独最多(2009年にウオッカが更新)。JRA賞でも2歳時から毎年、世代ごとの最優秀牝馬を受賞した。
(文中一部敬称略)
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メジロドーベル MEJIRO DOBER
1994年5月6日生 牝 鹿毛
- 父
- メジロライアン
- 母
- メジロビューティー (父パーソロン)
- 馬主
- メジロ商事㈱
- 調教師
- 大久保洋吉(美浦)
- 生産牧場
- メジロ牧場
- 通算成績
- 21戦10勝
- 総収得賞金
- 7億3342万2000円
- 主な勝ち鞍
- 99・98エリザベス女王杯(GI)/97秋華賞(GI)/97オークス(GI)/96阪神3歳牝馬S(GI)/97オールカマー(GⅡ)/98府中牝馬S(GⅢ)
- JRA賞受賞歴
- 99・98JRA賞最優秀4歳以上牝馬/97JRA賞最優秀3歳牝馬、最優秀父内国産馬/96JRA賞最優秀2歳牝馬
2021年7月号掲載