story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 64
メジロ復活への孝行娘
メジロドーベルと名門の奮励
2021年7月号掲載掲載
“マル外旋風”真っただ中に
日本古来の牝系の女王誕生
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メジロドーベルのデビューは96年の2歳7月。当時はまだ右回りだった新潟の牝馬限定新馬戦を快勝。変則日程だったこの年、中山で行われた新潟3歳Sは5着に敗れたものの、東京500万下のサフラン賞では直線で抜け出して勝利。続くオープンのいちょうSでは牡馬相手に2着に2馬身半差をつける完勝。阪神3歳牝馬Sに駒を進めた。
当時注目されていたのは、初年度からブレイクしたサンデーサイレンスの産駒で、ドーベルの同期はその3世代目。さらに“マル外旋風”とも言われた外国産馬の活躍も目覚ましかった。当時クラシックには外国産馬の出走資格がなく、この年5月に第1回が行われたNHKマイルCは“マル外のダービー”とも言われ、フルゲート18頭中、外国産馬が14頭で、結果、上位8着までを独占。阪神3歳牝馬Sでも、93年ヒシアマゾン、94年ヤマニンパラダイスと外国産馬が連勝。95年のビワハイジは内国産ではあったものの、母が受胎した状態で輸入され日本で出産した、いわゆる“持込馬”だった。
この96年の阪神3歳牝馬Sも出走10頭中4頭が外国産馬。単勝1・5倍の断然人気に支持されたのも外国産のシーキングザパールで、前走のデイリー杯3歳Sでは2着メジロブライトに5馬身差をつけ、2歳レコードで圧勝していた。ドーベルは2番人気でも単勝は5・8倍だった。
逃げ馬が飛ばし、10頭立てでも縦長の展開。シーキングザパールは4番手で、ドーベルはこれを前に見る位置を追走した。シーキングザパールの手応えが4コーナーで怪しくなると、早々と交わしにかかったドーベルが残り100㍍で先頭に立ち、追ってきたシーズプリンセスに2馬身差をつけての勝利。勝ちタイムの1分34秒6は、2年前のヤマニンパラダイスの勝ちタイムを0秒1上回る2歳コースレコードだった。
ドーベルの血統は、昭和14(1939)年生まれの6代母・第七デヴォーニアから内国産という日本の古い牝系。父系は祖父のアンバーシャダイからの内国産。サンデーサイレンス産駒か、外国産馬か、という時代にあって、あらためて純内国産の血統にスポットライトが当たった。
そして内国産を大切に育ててきたメジログループには、マックイーンの宝塚記念以来3年半ぶりのGIタイトル。76年が初出走だった大久保洋吉調教師は21年目でのGI級レース初勝利。そして鞍上の吉田豊騎手はデビュー3年目の重賞初勝利がGIという快挙。西のユタカ(武豊)に対して、“東のユタカ”と呼ばれるようになった。