story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 60
ノド鳴りを克服したGI5勝馬
ダイワメジャーの果てなき挑戦
2021年3月号掲載
喘鳴症から再起し、さらなる
高みへ導く名手との出会い
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気道入口の筋肉の麻痺で十分な空気が取り込めなくなり、喉からはヒューヒューと乾いた音が出る。皐月賞の頃から出始めていた喘鳴症の症状は、夏を越して重くなっていた。
引退とも天秤にかけた末、陣営は北海道の社台ホースクリニックでの手術を決断した。とはいえ、とても100%の治癒は望めない。全身麻酔を施しての手術は大がかりで、現在でも合併症のリスクなどに見合った効果は期待しにくい。だが、現役を続けるにはこれしかなかった。
先述のクリムゾンサタンは、じつは3歳の初め、副鼻腔の炎症に悩まされていたと言われる。呼吸器系のトラブルとひと括りにする乱暴さは承知の上で、それでも、そこには運命に似たものを感じざるを得ない。
3歳の秋が過ぎ、明けて4月。ダイワメジャーは約5カ月ぶりにGⅢのダービー卿チャレンジトロフィーで復帰した。そして驚いたことに、このレースを2馬身差で勝利した。
勝利こそしたが、ノド鳴りが完治したわけではもちろんなかった。このあとも微かな症状はずっと続き、飼い葉を食べながら咳き込むようなこともあったという。レースでも苦しさはあったはずだった。しかしそれを感じさせないほどの高いレベルの安定感で、ダイワメジャーは4歳シーズンを走り続けた。
安田記念8着。関屋記念2着。毎日王冠5着。マイルチャンピオンシップでは、2番手からハットトリックのハナ差2着に粘り込んでみせた。これだけでも、もう十分に「復活」と呼んでいい走りだった。
明けて5歳。中山記念2着からマイラーズCへ向かったダイワメジャーは、安藤勝己騎手と初めてコンビを組み、1年ぶりの勝利を挙げた。それはただ久しぶりに勝ったというだけでなく、さらに一段上の「復活劇」への、重要な転機だった。
公営笠松競馬から03年にJRAへ移籍して4年目。ビリーヴ、ザッツザプレンティ、アドマイヤドン、キングカメハメハ、ツルマルボーイ、スズカマンボなど、さまざまなタイプの名馬で結果を出し続けてきた安藤騎手は、このあとも何度か乗るうちに、ダイワメジャーの長所を引き出す騎乗を掴んでいく。
秋、初戦の毎日王冠を制したダイワメジャーと安藤のコンビは、続く天皇賞(秋)でも直線で2番手から抜け出し、皐月賞以来じつに2年半ぶりのGI勝ちを果たした。ノド鳴りの手術をした馬がGIを勝った例など、誰も聞いたことがなかった。それはとてつもない偉業だった。
さらにダイワメジャーは、その次走のマイルチャンピオンシップも勝利し、GI連勝を果たす。凄まじい復活劇だった。
早めに先頭に立って押し切る。流れが遅ければ自分から動き、我慢比べに持っていく。安藤騎手はダイワメジャーを「我慢強い馬」と評し、その最大の武器であるスピードの持続力を最大限に活かしたのだった。
いつしかダイワメジャーは「気性難と戦う馬」でも「ノド鳴りと戦う馬」でもなくなっていた。本当は戦っていたのだが、少なくともファンの目にはそういう映り方はしなくなっていた。それより、この馬は何かもっと大きなものと戦っているのかもしれない。そんな計り知れないスケールに、誰もが気づき始めていた。
その年の暮れ、ダイワメジャーの5歳最終戦は、有馬記念となった。
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