story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 58
乾坤一擲の大逃げ
ツインターボが愛される理由
2020年11月号掲載
逃げ馬集結の七夕賞で
披露した常識外れの大逃げ
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93年7月11日七夕賞。ツインターボの鞍上はこれまでの大崎昭一騎手や柴田善臣騎手から、中舘英二騎手に乗り替わった。当時の中舘騎手はデビュー10年目で前年に重賞初制覇を遂げた中堅ジョッキー。関係者の間ではスタートの巧さが知られており、ゲート難を解消できればという目論見での器用だったという。
しかし七夕賞は展開的に分が悪そうだった。先行争いの激化があきらかだったからだ。ツインターボがいる時点でハイペースは確実なのに、全7勝がすべて逃げ切り勝ちのマイネルヨース、全6勝がすべて逃げ切り勝ちのトミケンドリーム、全5勝がすべて逃げ切り勝ちのユーワビーム、逃げて4勝のスナークベスト、中距離実績のある逃げ馬が5頭もそろっていたのだ。しかもツインターボは大外枠の16番。デビュー以来、一度も奪われたことのないハナを、今回ばかりは奪われるかもしれない。
競馬ブームの真っただ中。今も破られていない福島競馬場入場者レコードの4万7391名が見つめる中、七夕賞のゲートが開く。
スタートは五分。二の脚で前に出たツインターボが内の15頭を包み込むようにして1コーナーを先取りする。向正面では4馬身ほどのリードを取って先頭。2番手集団にマイネルヨース、ユーワビーム、トミケンドリームの3頭が並ぶ。
見た目には3頭の逃げ馬がツインターボとの先行争いを避けたように感じる。しかし前半1000㍍の通過タイムが発表されて驚かされることになる。57秒4!? この3頭は2番手で折り合っていたのではない。常識的にいえば、激しい逃げ争いをしていたのだ。しかしその激しい逃げ争いよりもはるか3馬身先を、常識外れのハイペースでツインターボが逃げていたのである。
3~4コーナーに突入するとツインターボのリードはさらに広がる。福島競馬場にしては珍しい大逃げに、スタンドからは大歓声があがる。2番手集団で常識的な逃げ争いをしていた3頭は早々に失速。スタミナに長けたアイルトンシンボリが差してくるが、ツインターボのスピードは衰えない。結果は2着に4馬身差をつけて優勝した。
勝ち時計は1分59秒5。驚異的なのは前半3ハロンのラップタイム『12秒4-10秒6-10秒9』だ。中距離戦なのに前半2~3ハロンに10秒台が2本も出ている。参考までに、この年のスプリンターズSの前半3ハロンが『12秒0-10秒4-10秒8』。スプリントGIのような狂気のペースで逃げて、ツインターボは重賞2勝目をあげた。
秋初戦に選んだのは9月19日のオールカマー。天皇賞馬ライスシャワーや、桜花賞馬シスタートウショウなど、相手関係は一気に強くなった。しかし七夕賞とはうってかわって逃げ馬が不在だった。
スタートを決めた中舘騎手は持ったまま、馬の行く気に任せて加速していく。1コーナーではすでに2番手を5馬身以上離していた。スタンドがにわかにざわつきはじめる。
向正面に入ると、単独2番手のホワイトストーンと10馬身差、単独3番手のハシルショウグンとは20馬身差、1番人気のライスシャワーがいる馬群には3秒以上の差をつけるという大逃げだ。レース映像のカメラが、後続集団から3番手のハシルショウグン、2番手のホワイトストーン、そしてツインターボへとパンしていくのだが、パンの時間の長さに、スタンドから聞いたことがないどよめきが起こる。
4コーナーを回ってもリードは10馬身以上。脚色は少し鈍っているが、後続に鋭い脚を繰り出している馬はいない。もはやセーフティーリードである。ラスト1ハロンは13秒0かかったが、歴史に残る大逃げからの5馬身差での圧勝だった。