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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    前哨戦に敗れても巻き返す
    大一番に強い馬

    2010年 桜花賞 ● 優勝 前哨戦では伏兵に屈して2着に敗れるも、先行策から堂々とした取り口で桜の女王に輝いた©A.Takeda

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    2010年 オークス ● 優勝 サンテミリオンとの競り合いの末、JRA・GIでは初となる1着同着。不安を払拭し、三冠に王手をかけた©H.Watanabe

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     2010年が明けた。初戦のチューリップ賞は2着に終わったが、迎えた桜花賞では堂々の1番人気に推された。レースはオウケンサクラの逃げで展開した。アパパネも好位置で先行集団を見る。最後の直線、オウケンサクラが粘る。外からアパパネが一完歩ごとに迫る。半馬身抜け出したところがゴールだった。関東馬に関東所属の騎手が騎乗しての桜花賞制覇は1985年のエルプス(木藤隆行騎手)以来25年ぶりの記録だった。勝ちタイムは1分33秒3。2005年にラインクラフトがマークした1分33秒5を更新するレースレコードで、改修後の阪神競馬場では2007年の1分33秒7(ダイワスカーレット)を塗り替えた。

     桜花賞に続くオークスでは血統面から来る距離(2400㍍)への不安がささやかれた。母のソルティビッドは1200㍍で2勝、1000㍍で1勝というスピード馬だった。

     そんな不安に雨が追い打ちをかける。稍重でのオークスはスタミナ勝負が予想された。

     残り200㍍付近からマッチレースとなった。内は横山典弘騎手のサンテミリオン、外は蛯名騎手のアパパネ。外のアパパネが前に出たように見えたゴール前、今度はサンテミリオンが逆転したかに思えた。長い長い写真判定は10分以上続いた。結果は中央競馬のGI(JpnI含む。以下同)では史上初の1着同着。距離と稍重馬場を克服。薄氷を踏むようにして、牝馬三冠に王手をかけた。

     秋を迎え、アパパネの体は一回り大きくなった。ローズSでの体重は494㌔。前走のオークスより24㌔増。デビューからは42㌔も増えていた。それでも優勝争いに加わり、4着となって秋華賞への確かな手応えをつかんだ。

     秋華賞では4㌔減の490㌔で登場するが、馬体重が発表されるようになって誕生した牡牝合わせて11頭の三冠馬の中でもっとも大きいのが牝馬のアパパネである。

     2010年10月17日、第15回秋華賞は晴天の京都競馬場、芝2000㍍で行われた。15番枠からスタートしたアパパネはアグネスワルツが作るペースを中団で見据えた。ペースが上がった4コーナー手前からスパートを開始、直線は大外から一気に先行勢を飲み込み、最後は急追するアニメイトバイオを抑えて優勝した。蛯名騎手の左手がスタンドに向かって上げられた。「見てくれましたか」。史上3頭目の牝馬三冠を達成した人馬はそう訴えているようだった。JRAのGIを4勝以上した牝馬は現在までに7頭を数えるが、3歳10月に4勝目を挙げたのはアパパネが最速だ。

     金子オーナーはディープインパクトと合わせ、牡牝で三冠達成という快挙を達成。「馬主冥利に尽きる」と感激を表した。

     アパパネは大一番に強い馬だった。チューリップ賞で敗れても桜花賞で答えを出し、ローズSで不本意な成績に終わっても秋華賞で巻き返した。GI5勝のほかに重賞勝ちはない。狙ったレースは必ずものにしてきた。

    2010年 秋華賞 ● 優勝 勝負どころで外から進出すると、力強く抜け出す。 人馬一体で競馬史に残る快挙を達成した©Photostud

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