story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 54
史上3頭目の牝馬三冠馬
アパパネに輝く5つのティアラ
2020年7月号掲載
アーモンドアイが牝馬三冠を制する8年前、
同じ国枝栄厩舎から同じ快挙を果たした“先輩”。
GI(JpnI)5勝を挙げた彼女の記録とドラマをここに振り返る。
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ハワイに生息する小さな赤い鳥から馬名をもらったアパパネは2010年、桜花賞、オークス、秋華賞で優勝し、史上3頭目の牝馬三冠に輝いた。
競馬の世界で「三冠」は特別な響きを持つ。セントライトからオルフェーヴルまで皐月賞、ダービー、菊花賞を制した三冠馬7頭はいずれも競馬の殿堂入りを果たしている。
これに対し「牝馬三冠」は5頭と三冠馬より数は少ない。
オークスの前身である「阪神優駿牝馬」が始まったのは1938年。翌年、桜花賞が「中山四歳牝馬特別」の名前でスタートした。両レースの創設は早かったのだが、オークスは1952年まで秋に行われていた。菊花賞に当たる3歳牝馬限定戦を秋に設けようと施行されたのが「ビクトリアC」だ。1970年に始まり、その役割は「エリザベス女王杯」、「秋華賞」へと引き継がれた。
こうした紆余曲折があったため、牝馬三冠が整備されたのは、1970年以降。50年足らずの歴史しかない。80年近い時を重ねてきた三冠路線とは歴史の長さが違う。
史上初めて牝馬三冠に輝いたのは1986年のメジロラモーヌ(父モガミ、母メジロヒリュウ)だった。美浦・奥平真治調教師に育てられ、河内洋騎手とのコンビで桜花賞、オークス、エリザベス女王杯を制した。2頭目は2003年のスティルインラブ(父サンデーサイレンス、母ブラダマンテ)だ。栗東の松元省一厩舎に所属し、幸英明騎手の手綱で偉業を達成した。
牝馬三冠に失敗した二冠馬は4頭いた。テイタニヤ(1976年)、マックスビューティ(1987年)、ベガ(1993年)、ブエナビスタ(2009年)が最後のレースで敗れた。
母の方法を踏襲して
2歳女王の座へ
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アパパネは2007年4月20日に北海道安平町のノーザンファームで生をうけた。父キングカメハメハ、母ソルティビッド、母の父Salt Lakeという血統だ。美浦の国枝栄厩舎に預けられたのには母娘2代にわたる縁があった。
2000年に米国で生まれた母のソルティビッドは、フロリダでのセリに出場したのを馬主の金子真人氏に見初められた。来日後、預託先に選ばれたのが国枝厩舎である。2002年8月にデビューしたソルティビッドは2004年3月のオーシャンSで14着になったのを最後に現役生活に別れを告げた。地方交流も含め12戦3勝の成績を残した。
繁殖牝馬になったソルティビッドが3番目に産んだのがアパパネだ。父のキングカメハメハは金子オーナーの服色で走り、NHKマイルCとダービーの「変則二冠」を達成した。父も母も所有馬という、金子オーナーにとっては自家生産といえる血統だ。アパパネは母と同じく国枝厩舎に加わった。
2009年7月5日、福島競馬場でアパパネはデビューした。鞍上は蛯名正義騎手。1戦を除き、引退するまで18戦で手綱を取ることになる主戦だ。母のソルティビッドにも乗った経験がある。芝1800㍍の新馬戦。好位置にとりつき、内ラチ沿いの経済コースを進むが、ゴールでは3着。デビュー戦の体重は自己最少の452㌔。まだ体力がつき切っていなかった。
2戦目は3カ月半の間を置いた10月の東京競馬場。芝1600㍍の未勝利戦だった。この休養の間に体重は24㌔増えて476㌔になった。最後の直線では馬群を割って抜け出し、危なげない勝利を飾った。
中1週の間隔で臨んだ3戦目は赤松賞だった。初勝利を挙げたのと同じ東京競馬場の芝1600㍍が舞台だった。3番人気に支持されたアパパネは16頭のメンバー中最速の上がり3ハロン33秒6の末脚を見せて快勝。勝ちタイムの1分34秒5は当時の2歳コースレコードとなった。
2歳の最終戦はJpnI阪神ジュベナイルフィリーズ。レースに備え、11月下旬に栗東トレーニング・センターへと移動した。関東の美浦トレーニング・センターに所属する馬が関西で行われるレースに向けて調教の拠点を変える。当時「栗東留学」と呼ばれた臨戦態勢だ。アパパネの母ソルティビッドが阪神ジュベナイルフィリーズに臨んだ7年前も栗東留学した。国枝厩舎はこの年の春、マイネルキッツを栗東留学させて天皇賞制覇に成功していた。
同じ馬主、同じ調教師、同じ騎手で挑む母娘2代にわたる挑戦は見事に結実した。大外18番枠からスタートしたアパパネは中団を進む。最後の直線で蛯名騎手が内側に進路を取ると、はじかれたような末脚を見せ、2着のアニメイトバイオに半馬身差をつけて優勝した。2009年に行われた2歳重賞11レースで関東馬が優勝したのは阪神ジュベナイルフィリーズだけだった。関西馬が勝ち進む「西高東低」の状況に一矢を報い、この勝利により、アパパネはJRA賞の最優秀2歳牝馬に選ばれた。
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