story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 48
テンよし、中よし、終いよし
テスコガビーが体現した理想
2019年12月号掲載
牝馬とは思えない体と走りで
たちまち評判に
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キタノリュウの娘は東京在住の馬主、長島忠雄の所有になった。長島はとなりに住んでいたスイス人貿易商のガビエルという娘の愛称をとってテスコガビーと名づけた。
1歳の11月になるとテスコガビーは青森県の明神牧場(のちに明成牧場)に預けられた。明神牧場は成宮明光調教師の妻の実家であり、ビゼンニシキなどの生産牧場として知られる。仲住芳雄はよくここに育成を頼んでいた。
2歳の3月に東京競馬場にやってきたテスコガビーはたちまち評判になった。牝馬とは思えないりっぱな体と軽快なフットワークは目を見張るものがあった。
仲住は茂木為二郎厩舎の菅原泰夫に騎乗を依頼した。ローカル開催を中心に乗っている地味な中堅騎手だが、調教もまじめに乗ってくれる男である。
当初、テスコガビーは夏の新潟でデビューする予定だったが、ゲート練習中に腰をぶつけたために9月の東京にずれ込んでいる。それでも7馬身の差をつけて勝つと、2戦めの3歳ステークス(東京)も楽勝し、京成杯3歳ステークス(中山)では6馬身差、レコードタイムで逃げきった。
しかし、目標にしていた朝日杯3歳ステークスは脚部不安で回避している。テスコガビーのいない朝日杯は牝馬のマツフジエースが勝った。この世代のクラシックは、とくに関東では牝馬上位で進行していた。
75年。テスコガビーは京成杯から始動した。2か月半ぶりのレースでも単勝1・6倍の人気に支持され、スタートから先手を奪い、直線では内からイシノマサルが並びかけてきたが、そこからいま一度伸びて勝利している。頭差と着差は小さかったが、スピード馬と思われていたテスコガビーがあらたな一面をみせたレースでもあった。
つづく東京4歳ステークス(現共同通信杯)では、二冠馬となるカブラヤオーと顔を合わせた。騎手はともに菅原泰夫である。10月号の「カブラヤオー」の稿でも書いたので詳細は省くが、菅原が乗ったテスコガビーは、菅野澄男に乗り替わったカブラヤオーに首差で負けている。馬を恐がるために逃げなければいけないカブラヤオーに先を譲り、直線ではカブラヤオーが外にふらついてくるなど、難しいレースではあった。
ここまでずっと牡馬を相手にしてきたテスコガビーは、はじめての牝馬限定戦となった阪神4歳牝馬特別(現フィリーズレビュー)をレコードタイムで逃げきっている。単勝支持率は約88%。配当は“元返し”の100円だった。
「この馬は“テンよし、中よし、終いよし”で、すべての面で超一流です」
テスコガビーのスピードと強さを目の当たりにして驚く関西の記者たちに向かって、菅原はのちに“競馬用語”となる名言で馬のすばらしさを表現した。スタートもよくダッシュ力もあり、レース中はリズムよく走り、ラストスパートもしっかりしている、競走馬の理想型がテスコガビーだった。
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