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出走馬の様子
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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    議論の対象にもなった、
    当時は特異な臨戦過程

    2003年有馬記念●優勝:ラストランはレース史上最大の9馬身差の圧勝。ペリエ騎手が「パントレセレブルと甲乙つけ難い」と自身が騎乗した凱旋門賞馬を持ち出すほどの強さを見せ、ターフに別れを告げた©K.Ishiyama

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     古馬になったシンボリクリスエスは、それまでとはまた別の形で「藤沢厩舎の馬」らしさを体現することとなる。前哨戦を使わない、いわゆる“ぶっつけ本番”でのGI出走だ。

     いまでこそまったく珍しくないが、00年代初頭、それは決してポジティヴな印象を与えない臨戦過程だった。

     レースも調教も、ただ走ればいいとか、強くやればいいというものではない。そんな藤沢調教師の考え方は当時の競馬界ではまだ特異で、その是非は時に議論の対象にもなった。

     4歳春、シンボリクリスエスは天皇賞(春)に出ないどころか、宝塚記念まで一走もしなかった。距離適性と秋に疲れを残さないことが理由とされたが、怪我もないのにその間隔は、いかにも藤沢厩舎らしく映った。

     この5月、シンボリクリスエスは、ダービーに臨む1歳下のゼンノロブロイの追い切りで併せ馬の相手を務め、絶好の動きを見せた。しかし藤沢調教師はローテーションを考え直すどころか「早く仕上がりすぎそうなので、少し緩めます」と話した。

     予定通り、シンボリクリスエスは半年ぶりの実戦で宝塚記念に出走した。そしてなんと、5着に敗れてしまった。結果的にこれが生涯で唯一、3着以内を外したレースとなった。

     それでもなお、この次走、シンボリクリスエスは宝塚記念以来の休み明けで天皇賞(秋)に臨んできた。

     当時のメディアの記事には、この“ぶっつけ本番”について訊かれた藤沢調教師が、またその話かとうんざりしたように、こんな説明をしたとある。宝塚記念の敗因は仕上がりではなく、厳しい流れで早めに先頭に立つ競馬が裏目に出た。そして秋3戦のGIを戦う前に余計なレースを走らせるのは、体力的に厳しいと考えている。そういうことだった。

     そして天皇賞(秋)。シンボリクリスエスはツルマルボーイに1馬身半差の完勝を収める。勝ちタイムはコースレコード。史上初となる天皇賞(秋)連覇の達成だった。

     重馬場に苦しみ、タップダンスシチーの9馬身差逃げ切りの3着に終わったジャパンCを挟み、迎えた有馬記念。すでに種牡馬入りが決まっているシンボリクリスエスの所有権の半分は、シンボリ牧場から社台グループに譲られていた。

     それは誰もが呆れる圧勝だった。
    「ゴールの瞬間、隣にいたノーザンファームの吉田勝已さんと顔を見合わせて、ドバイか? もう1年走っちゃうか? なんて興奮してしまいました。そうしたら社台ファームの吉田照哉さんが、ダメだよ、もう種牡馬入りの段取りができてるんだから、って(笑)。オリビエ(ペリエ騎手)も、やっぱり強いね、凱旋門賞だね、なんて言ってました(笑)」

     そう話してくれた藤沢調教師は、こんなふうに付け加えた。
    「調教からもレースからも、最後がいちばん強かったんじゃないかな。そんな馬は他にいませんよ。普通は衰えたから引退するんです。クリスエスは、例外です」

     いわば日本競馬の「例外」としてシーンを牽引した藤沢調教師に「例外」と言わせる馬。それが、シンボリクリスエスという馬なのだ。

    ©M.Watabe

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    シンボリクリスエス SYMBOLI KRIS S

    1999年1月21日生 牡 黒鹿毛

    Kris S.
    Tee Kay(父Gold Meridian)
    馬主
    シンボリ牧場
    調教師
    藤沢和雄(美浦)
    生産者
    Takahiro Wada(米国)
    通算成績
    15戦8勝
    総収得賞金
    9億8472万4000円
    主な勝ち鞍
    02・03有馬記念(GI)/02・03天皇賞(秋)(GI)/02神戸新聞杯(GⅡ)/02青葉賞(GⅡ)
    JRA賞受賞歴
    03JRA賞年度代表馬、最優秀4歳以上牡馬/02JRA賞年度代表馬、最優秀3歳牡馬

    2019年6月号

    軍土門隼夫 HAYAO GUNDOMON

    1968年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学を中退後、「週刊ファミ通」編集部、「サラブレ」編集部を経てフリーのライターとなる。現在、「優駿」「Number」などの雑誌やweb媒体などで執筆。著書に「衝撃の彼方 ディープインパクト」がある。

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