story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 39
史上初となる天皇賞春秋制覇を果たす。
タマモクロスの眩い閃光
2018年11月号掲載
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天皇賞(春)の勝利を受け、タマモクロスは続けて宝塚記念(GⅠ)に向かった。このレースには、前年の天皇賞(秋)とマイルチャンピオンシップ、そしてこの年の安田記念を勝っている短中距離の第一人者・ニッポーテイオーが出走してきた。これまで中長距離路線を歩んできたタマモクロスにとって、初めて相対する強敵である。
マイル~中距離の王者と長距離のチャンピオンが、阪神2200という舞台でどんな競馬をするのか、どちらが強いのかと大きな注目を浴びたレースだったのだが、勝負はあっけなくついた。
先行するニッポーテイオーと中団待機のタマモクロス。早めに動いたタマモクロスが馬場の中ほどにコースを取りながら直線を向いたとき、その前には広大なスペースがあった。タマモクロスの進路を遮るものはいない。内を行くニッポーテイオーを並ぶ間もなく交わし去って、いまいちばん強いのは誰なのかを、すべての競馬ファンに知らしめることになった。
が、タマモクロスが現役最強馬であることに、異論を挟む余地がなかったわけではない。まだタマモクロスと対戦していない馬がいたのだ。
オグリキャップである。
もはや説明不要のこの3歳馬は、クラシック登録がなかったために目標を天皇賞(秋)に置いていた。そして前哨戦の毎日王冠(GⅡ)をステップに、万全の状態で天皇賞に臨んでいた。
対するタマモクロスも、史上初の天皇賞春秋制覇を果たすべく、東京競馬場に初めてその姿を現した。ただ、オグリキャップの存在以外にも、懸念があった。夏の休養からステップレースを使わず、いわゆるぶっつけでのレースだったのだ。
レースはレジェンドテイオーが引っ張る形になったが、なんとタマモクロスも先行し、2番手につける。この積極的なレースぶりがどう出るか、見ているファンにも不安がよぎる。
しかし、それはまったくの杞憂に終わった。直線「あとはレジェンドテイオーを交わすだけ(いつでも交わせる)」の手応えから、簡単にこれを交わす。中団から猛然と伸びてきたオグリキャップがタマモクロスに迫るが、最後は脚いろが一緒になり、2頭の馬体は1馬身1/4の差より近づくことはなかった。タマモクロスの完勝だった。
この天皇賞はタマモクロスに軍配が上がり、天皇賞春秋制覇を成し遂げたのだが、タマモクロスとオグリキャップの対決に決着がついたわけではない。このあと、この2頭は、ジャパンC(GⅠ)と有馬記念(GⅠ)で相まみえることになる。
ジャパンCではスローな流れにスムーズさを欠いたタマモクロスはペイザバトラーの半馬身差2着に敗れ(オグリキャップ3着)、タマモクロスが重ねてきた連勝が8、重賞連勝も6で止まる。さらに有馬記念では今度は前に出たオグリキャップをタマモクロスが追う展開になったが届かず、ついにオグリキャップの後塵を拝すことになった(2着)。
有馬記念をもってタマモクロスが現役を退き、その対戦は終わる。それは「芦毛同士の頂上決戦」と呼ばれ、この年の競馬を大いに盛り上げた。
「頂上決戦」は現実にそのとおりだったのだが、同時に言われた「芦毛のライバル対決」という表現には、私は漠とした、しかし抜きがたい違和感が拭えずにいる。
2頭の直接対決はわずか3戦であり、ライバルという言葉が持つ「切磋琢磨」のイメージにあわないのかもしれない。が、それ以上に、タマモクロスは果たして「ライバル」を必要とする馬だったのだろうか、と思うのだ。
恬淡、というのだろうか。能力も、見せるパフォーマンスも桁外れなのに、その佇まいには欲や執着があまり感じられないのである。不思議な馬であり、またそれが大きな魅力でもある。
衝撃の全国デビューを果たした鳴尾記念から、わずか1年。
「白い稲妻」とは、よく言ったものだ。タマモクロスは、昭和という時代の終わりに突如として出現し、そして一瞬のうちに消えていった眩い閃き、閃光だったのである。(文中敬称略)
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タマモクロス TAMAMO CROSS
1984年5月23日生 牡 芦毛
- 父
- シービークロス
- 母
- グリーンシャトー(父シャトーゲイ)
- 馬主
- タマモ㈱
- 調教師
- 小原伊佐美(栗東)
- 生産牧場
- 錦野牧場(北海道・新冠町)
- 通算成績
- 18戦9勝
- 総収得賞金
- 4億9061万4000円
- 主な勝ち鞍
- 88天皇賞(秋)(GⅠ)/88宝塚記念(GⅠ)/88天皇賞(春)(GⅠ)
- JRA賞受賞歴
- 88年度代表馬/88最優秀4歳以上牡馬/88最優秀父内国産馬
2018年11月号