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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    復帰後は本来の姿を取り戻せず…
    種牡馬としての馬生を歩み始める

     骨折による長期休養から復帰して以降のキズナについて書くことは、つらい作業だ。そこにあったのは、キズナ本来の姿ではなかったからだ。

     キズナがターフに戻ってきたのは、5歳となった15年2月の京都記念だった。この約9カ月ぶりの実戦は3着。続く大阪杯は2着。そして天皇賞(春)で7着に敗れ、キズナは再び休養に入った。

     佐々木晶三調教師は当時、休養は気持ちのリフレッシュのためだと話してくれた。どうしてもトップギアに入らないのは、馬が脚の痛みを覚えてしまっているからとしか思えない。なぜなら、そのくらいひどい骨折だったから、という話だった。

     復帰への調整が続く秋、9月20日。キズナは右前繋部浅屈腱炎の発症と、現役引退が発表された。

     じつはこの1年前の秋、佐藤哲三騎手もジョッキーを引退していた。計6度の手術を行い、リハビリを続けていたが、夏に大山ヒルズを訪れた際、骨折休養中のキズナを見て「可愛いな」と思ってしまった。ずっと騎手として馬にそういう気持ちを持たないようにしてきたが、それができなくなったのは、引退すべき時が来たということだと思った。会見では、そういう言葉が語られていた。

     いま、キズナは種牡馬としての馬生を歩み始めた。その仔をノースヒルズが生産し、武豊騎手が跨ってダービーを勝ち、凱旋門賞に挑戦する。その走りを競馬評論家・佐藤哲三が解説する。そんな日が、おそらくそう遠くないうちにやってくる。

     キズナの“絆”は、どこまでも繋がっていく。

     なぜなら、そういう馬なのだ、キズナは。

    凱旋門賞の前哨戦となったニエル賞では、同世代の英ダービー馬ルーラーオブザワールドを下し、海外でも勝利を挙げる©I.Terashima

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    3歳秋の海外挑戦後の復帰初戦となった4歳春の大阪杯。ここでも自慢の末脚を披露し、その後の期待が大きく膨らむ勝利となったが、同馬にとってこれが最後の勝ち星に……©Y.Maeda

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    ©M.Seki

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    キズナ KIZUNA

    2010年3月5日生 牡 青鹿毛

    ディープインパクト
    キャットクイル(父Storm Cat)
    馬主
    前田晋二氏
    調教師
    佐々木晶三(栗東)
    生産牧場
    ㈱ノースヒルズ(北海道・新冠町)
    通算成績
    14戦7勝(うち海外2戦1勝)
    総収得賞金
    5億1595万5800円(うち海外3955万6800円)
    主な勝ち鞍
    13日本ダービー(GⅠ)/14大阪杯(GⅡ)/13ニエル賞(仏G2)/13京都新聞杯(GⅡ)/13毎日杯(GⅢ)
    JRA賞受賞歴
    13最優秀3歳牡馬

    2018年3月号

    軍土門 隼夫 HAYAO GUNDOMON

    1968年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学を中退後、「週刊ファミ通」編集部、「サラブレ」編集部を経てフリーのライターとなる。現在、「優駿」「Number」などの雑誌やweb媒体などで執筆。著書に「衝撃の彼方 ディープインパクト」がある。

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