story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 28
短距離界の絶対王者
ロードカナロアの偉業
2017年10月号掲載
安田隆行厩舎の快速馬2頭が
GⅠレースで王座を争った
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2010年12月、小倉競馬、芝1200㍍の新馬戦でロードカナロアはデビューした。後に大出世する馬らしく短距離戦にもかかわらず2着に6馬身の差をつけてスピードの違いをみせつけた。しかし、当時はまだ本格化する前。2戦目のジュニアC、3戦目の500万条件をいずれも2着に敗れてしまう。敗れた2戦は1600㍍と1400㍍ではあったが、後に安田記念も勝利する馬であることを考慮すれば、やはり本格化前だったとみるのが正しいだろう。
その後、1200㍍に路線を戻すと、京阪杯やシルクロードSといった重賞を含む5連勝。ふらふらしながらも楽々と突き抜けたシルクロードSの勝ちっぷりは圧巻で、続くGⅠ・高松宮記念でも1番人気に支持されるまでになった。
しかし、このGⅠを制したのは前年のスプリンターズSの覇者で、同じ安田隆行厩舎の馬であるカレンチャンだった。
その頃、安田隆行厩舎で調教助手をしていたのは調教師の子息で、現在は自身も調教師となった安田翔伍。当時、次のように語っていた。
「カナロアはまだ競馬を教えている段階という感じ。とはいえ複雑な心境ですね。まぁ、カレンチャンが勝ったから良しとしますか……」
ところが安田翔伍は半年後にもっと複雑な気分となる。
函館スプリントSとセントウルSを共に2着に敗れたロードカナロアは、続くスプリンターズSで2番人気となった。今度の1番人気はカレンチャンだ。
手綱をとるのはセントウルSから鞍上を任され、これがコンビ2戦目となる岩田康誠。彼が見事な騎乗でロードカナロアをいざなった。徹底的にカレンチャンをマークすると、直線、外から僚友の女王をかわし、1分6秒7のレコードタイムで新チャンピオンへと導いたのだ。
「セントウルSは休み明けでもあったし、僕自身もロードカナロアには初騎乗ということで2着に負けてしまいました。でも、良い馬であることは分かったし、ひと叩きされた後のここなら充分やれる手応えは掴んでいました」
岩田はそう語って喜びを表した。
一方、安田翔伍は次のように語った。
「カレンチャンは前年のスプリンターズS、この春の高松宮記念と連勝していましたからね。彼女の日本におけるスプリントGⅠ3連勝を阻む形になってしまったので本当に複雑な気持ちになり、ただただ号泣してしまいました」
ついにロードカナロアはGⅠホースとなった。しかし、彼にとってはこの頂でさえ、まだ道半ばだったのである。