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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    こんなに速く走れることを
    どうして隠していたのか

    2001年のドバイシーマクラシック(UAE-G2)で、信じられない末脚を繰り出し、ヨーロッパ最強馬ファンタスティックライトを差し切った©H.Imai/JRA

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     JRAおよび海外のGⅠ出走回数20、連続重賞出走回数36という当時の最多記録を作った。無事是名馬という点でも日本の競馬史上最高だったと言うのは褒めすぎか。

     現役を退いてから16年、世を去ってから2年経った今、大種牡馬サンデーサイレンスの代表産駒の一頭であり、後継種牡馬の代表格でもあったことは、誰もが認めるところだ。しかし、2、3着を繰り返していたとき、この馬の能力が世界クラスであることを見抜いていた人はどれくらいいただろうか。

     こんなに速く走れることをどうして隠していたのかは、ステイゴールド自身に聞いてみないとわからない。若いころから全力を出して、3歳か4歳ぐらいでGⅠをいくつか勝っておけば、それ以上走ることもなく、若くして種牡馬になることができただろうが、そのあたりは人間の都合で決められることなので、馬に責任はない。

     隙を見ては噛みつこうとしたり、蹴ろうとしたり、左にモタれようとしたりと、気の悪さを見せていたという証言は無数にあるが、走ることが嫌いだった、というコメントは聞いたことがない。人間が嫌いだ、という話も聞かない。結果的に、足かけ6年にわたり、50戦もしながら人間たちと過ごし、走りつづけたことは、この馬にとって幸せだったのだろう。

     写真を見ると、武騎手が、馬銜で支点をつくらない長手綱で追っていることがわかる。スペシャルウィークやシーキングザパールのように、指示に反発することのある馬に対して有効な手法で、この少し前から、クリス・マッキャロン元騎手、キアラン・ファロン元騎手といった当時の名手の追い方を参考に取り入れたものだ。

     それに対し、この見開きの写真では、ラスト200㍍地点で軌道修正して右手前に替えたこともあって、しっかり支点をつくって追っている。

     走る馬ほど口向きが悪かったり、歓声に驚いて内に切れ込むなど難しいところのあったサンデーサイレンス産駒で世界一多く勝っていた武騎手を、それもキャリアのピークに達しようとしていた時期に鞍上に迎えられたことも、ステイゴールドにとって幸運だった。

     産駒のオルフェーヴルは、歴代の三冠馬のなかで、三冠達成前にふた桁着順を経験した唯一の存在だ。騎手を振り落としたり、レース中に逸走したりと、父同様の気難しさを見せながらも、高い競走能力を発揮しつづけた。

     1歳下のゴールドシップは、3歳秋から4歳春にかけては「不沈艦」と呼ばれるほど安定した強さを見せていたのに、その後は、ゲート内で吠えて3秒ほども出遅れたりする「猛獣」になった。

     両馬の母の父メジロマックイーンも、納得しないと一歩も動こうとしなかったりと難しいところがあったというから、どちら譲りかは断定できないが、ともかく――。

     普通の馬、善戦マン、猛獣系の超一流馬……と、いくつもの個性的な顔を見せてくれたステイゴールドは、難しくて、強くて、面白くて、何年経っても忘れられない、特別な馬だった。

    2001ドバイシーマクラシック©H.Imai/JRA

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    50戦目、引退レースとなった香港ヴァーズ(G1)も、とても届かないと思われた位置からの差し切り勝ちでGI初制覇©H,Watanabe

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    ステイゴールド STAY GOLD

    1994年3月24日生 牡 黒鹿毛

    サンデーサイレンス
    ゴールデンサッシュ(父ディクタス)
    馬主
    ㈲社台レースホース
    調教師
    池江泰郎(栗東)
    生産牧場
    白老ファーム
    通算成績
    50戦7勝(うち海外2戦2勝)
    総収得賞金
    10億2113万8100円(うち海外2億5814万5100円)
    主な勝ち鞍
    01香港ヴァーズ(G1)/01ドバイシーマクラシック(UAE-G2)/01日経新春杯(GⅡ)/00目黒記念(GⅡ)
    JRA賞受賞歴
    01特別賞

    2017年6月号

    島田 明宏 AKIHIRO SHIMADA

    1964年生まれ、北海道出身。早稲田大学政治経済学部政治学科中退。大学在学中より放送作家として活動。同時期にライターでの活動も始め、「Number」「競馬の達人」などで競馬の原稿を手掛ける。2011年、「消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡」でJRA賞馬事文化賞を受賞。

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