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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    肉眼では判断がつかないほどの
    大接戦をものにした驚異の粘り

    ステージチャンプの強襲を辛くも凌ぎ切り天皇賞(春)2勝目を挙げた95年のレースが結果的に最後の勝利となった©JRA

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     その後、ライスシャワーは長く暗いトンネルに入ってしまう。劇的な勝利を収めた93年の春以降は連戦連敗。そのうえ、94年の日経賞2着ののち、天皇賞(春)を目指して入厩していた栗東トレーニング・センターでの調教で右前肢の管骨を骨折してしまう。復帰戦の有馬記念で3着に食い込む好走などもあったが、6歳、95年になっても調子は上がらなかった。京都記念、日経賞はともに6着。口さがない向きには「終わった馬」とさえ囁かれる始末だった。

     調子は悪くなかった。それでも長いスランプで、陣営も半信半疑のまま二度目の天皇賞(春)へと向かった。そこにはかつてのライバル、ミホノブルボン、メジロマックイーンの姿はもちろんなく、前年に三冠を制して人気の頂点にあったナリタブライアンも故障で戦線を離脱していた。出走馬のなかでGⅠのタイトルを持つのはライスシャワーただ1頭。それでも評価は4番人気にすぎなかった。

     レースは予想どおりに超スローペースで進んだ。ライスシャワーは中団に位置していたが、折り合いにはまったく難がない彼が2周目のバックストレッチで珍しく“行く気”を見せた。ここで手綱をとるベテラン的場均の勝負師的な勘が働いた。「このまま行かせれば、終いまで堪えてくれるのではないか」。手綱を相棒の“行く気”に任せると、3コーナーで先頭に立ち、そのまま4コーナーを回って直線を向いた。後続の蹄音はなかなか聞こえて来ない。しかし、ゴール寸前、大外からステージチャンプが急襲。肉眼では判断がつかないほどの大接戦になったが、蛯名正義がガッツポーズをしたため、ステージチャンプが逆転したものだと多くのファンは感じた。しかし写真判定の結果、ライスシャワーがわずかにハナ差、粘り切っていた。スタンドからはライスシャワーを称賛する歓声と拍手が盛大に沸き起こった。かつてミホノブルボン、メジロマックイーンを倒した6歳のベテランが全身全霊をかけた走りで表舞台へと帰ってきた。ライスシャワーはそれまでの「ヒール」の立場から解き放たれ、三度目のGⅠ勝ちにしてようやく「ヒーロー」の座に辿り着いたのである。

     6歳のニューヒーローへの人気はにわかに盛り上がりを見せた。宝塚記念のファン投票では堂々の1位となった。天皇賞ののちに疲れが見られたため出走回避も考慮されていたが、ファン投票の結果が陣営の気持ちを後押しした。ほかにも、種牡馬入りする前に2000㍍前後の中距離戦でGⅠタイトルを手にさせたいという関係者の思いや、この年の宝塚記念が阪神淡路大震災の影響で彼が得意とする京都競馬場での開催となったことなどの要因が加わり、ライスシャワーは四つ目のGⅠ奪取に挑むことになる。

     レースで起こったことはあえてここでは触れるまい。ライスシャワーの蹄跡は4コーナーの手前で途絶えてしまった。しかしすべては結果論である。そこにはただ悲しみが残っただけだ。

     天皇賞(春)をきっかけに人気が盛り上がった矢先での出来事だけに、関係者はもちろんのこと、ファンが受けた衝撃は苛烈なものだった。その感情の振幅の大きさが、いまもってライスシャワーの死が私たちに強烈な記憶として刻み付けられている理由ではないかと、いまあらためて感じている。

     そして、筆者はずっと忘れないだろう。93年の天皇賞(春)でのライスシャワーの極限まで絞り込んだ鬼気迫る姿と、粘るメジロマックイーンを振るい落とした裂帛(れっぱく)の気合を。(文中敬称略)

    菊花賞、天皇賞(春)2勝と、京都の長距離GIでひときわ輝いた©H.Imai/JRA

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    ライスシャワー RICE SHOWER

    1989年3月5日生 牡 黒鹿毛

    リアルシャダイ
    ライラックポイント(父マルゼンスキー)
    馬主
    栗林英雄氏
    調教師
    飯塚好次(美浦)
    生産牧場
    ユートピア牧場
    通算成績
    25戦6勝
    総収得賞金
    7億2949万7200円
    主な勝ち鞍
    93・95天皇賞(春)(GⅠ)/92菊花賞(GⅠ)/93日経賞(GⅡ)
    JRA賞受賞歴
    95特別賞

    2017年3月号

    三好 達彦 TATSUHIKO MIYOSHI

    1962年生まれ、香川県出身。立教大学文学部卒業。雑誌やweb媒体などで競馬のほか、サッカー関連の記事も執筆。

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