story 未来に語り継ぎたい名馬物語
未来に語り継ぎたい名馬物語 18
美麗でしなやかなサラブレッド
スペシャルウィークと府中芝2400㍍
2016年10月号掲載
古馬となりジャパンCを制覇
名手の「夢」をふたつも叶えた
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確かに、状態は、春の好調時には及ばなかった。
だが、ひとつ、大きなプラス材料があった。それは、圧巻の強さを見せたダービーと同じ、東京競馬場が舞台となることだった。
武が東京でスペシャルウィークに乗るのは、そのダービー以来だ。
抜け出すときの瞬発力。その、スペシャルウィークの武器がもっとも威力を発揮するのは、東京の500㍍の直線である。流れがどうあれ、この馬の最大限の力を引き出す乗り方をする――そう決めた武は、縦長になって馬群の後方で折り合いをつけ、直線勝負に出た。
武の左鞭に応え、スペシャルウィークは大外から鋭く伸びた。ラスト200㍍地点で先頭から5、6馬身まで迫り、最後の数完歩で並びかけ、差し切った。
持ち前の切れ味で、天皇賞春秋連覇をやってのけたのである。
さすがの武も、絶対の自信を持って臨んだわけではなかった。
――こう乗れば伸びるはずだ。いや、伸びてくれるかな、伸びてほしい……。
と、直線に向くまで半信半疑だったというが、スペシャルウィークは、鞍上とともに磨きつづけた瞬発力を、高いレベルのまま、持ちつづけていた。
もともとはダービーを勝つために英才教育を施してきたわけだが、次走は、ダービーと同じ東京芝2400㍍で行われる第19回ジャパンC。岡部の手綱で3着に敗れた前年のジャパンCを制したのは同い年のエルコンドルパサーで、そのエルコンドルパサーを前月の凱旋門賞で下したモンジューが1番人気、スペシャルウィークは2番人気だった。
ここでも武はスペシャルウィークの武器を引き出す競馬をした。道中は後方で脚を溜め、直線で抜け出し1馬身半差で勝利。武にとって、8度目の参戦にしてなし得た、ジャパンC初制覇であった。
実は、武はデビューした87年、重賞初勝利を挙げたトウカイローマンでジャパンCに参戦していた。当時は外国馬より日本馬のほうが少なく、出場する日本人騎手も少数だった。その年に乗った日本人騎手は、彼のほか、岡部と蛯沢誠治、大西直宏と地方の的場文男だけ。11着という結果に終わったが、競馬学校時代から海外の競馬に憧れていた彼にとって、「世界」との初コンタクトとなったのが、その第7回ジャパンCであった。
海外遠征に出るようになってから欧米の関係者に、しばしば直近のジャパンCの成績を訊かれた。
ダービーを勝つことは子供のころからの夢で、ジャパンCを勝つことは「騎手になってからの夢」だった。スペシャルウィークは、武の大きな夢をふたつも叶えたのだ。引退レースとなった有馬記念では、またもグラスワンダーの2着となるなど悔しい思いもしたが、与えられた喜びのほうがずっと大きかった。
突出した瞬発力で、日本の誇る名騎手に最高の勲章と栄誉を授けながら、私たちを感動させたスペシャルウィーク。
その名のとおり、いくつもの特別な週末をプレゼントしてくれた。
(文中敬称略)
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スペシャルウィーク SPECIAL WEEK
1995年5月2日生 牡 黒鹿毛
- 父
- サンデーサイレンス
- 母
- キャンペンガール(父マルゼンスキー)
- 馬主
- 臼田浩義氏
- 調教師
- 白井寿昭(栗東)
- 生産牧場
- 日高大洋牧場
- 通算成績
- 17戦10勝
- 総収得賞金
- 10億9262万3000円
- 主な勝ち鞍
- 99ジャパンC(GⅠ)/99天皇賞(秋)(GⅠ)/99天皇賞(春)(GⅠ)/98日本ダービー(GⅠ)/99阪神大賞典(GⅡ)/99アメリカJCC(GⅡ)/98京都新聞杯(GⅡ)/98弥生賞(GⅡ)/98きさらぎ賞(GⅢ)
- JRA賞受賞歴
- 99特別賞
2016年10月号