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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    前脚が上がるフォームは
    脚にかかる衝撃も大きかった

    【H.Imai(JRA)】

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    皐月賞に続いてダービーでも大外枠だったが、それをものともせず二冠達成 【H.Imai(JRA)】

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     「わかりやすい外見」。それもまた、テイオー人気を支えた要因の一つだった。

     すらっと伸びた四肢。長い前髪。鼻梁に鮮やかに浮かぶ流星。着地の瞬間、地面に触れそうなほど沈み込む球節。

     中でもとりわけ目に付く特徴と言えば、繋ぎの柔軟性とバネだろう。

     こうしたテイオーの身体的特徴と故障には、何か因果関係があるのだろうか。見解を尋ねたのは、馬体や馬の走るメカニズムに洞察の深い岡田繁幸氏(ビッグレッドファームグループ代表)である。

    「馬の各部分は、柔らかくないと骨折しやすくなります。たとえば骨を考えても、グーッと力のかかった時に、枝がしなるような格好になって、かかった力を少しずつ抜いていくわけです。でも、その部分が固い場合には、力がうまく抜けず、まともに受け止めてしまいますので、限界点に達するとパキンと折れてしまう。強風にさらされた木を想像してもらえればわかりやすいでしょうね。ですから、トウカイテイオーのように柔らかい体質の馬は、基本的には故障しにくいんです。ただ、あそこまで柔らかいということは、たとえば着地した時に、支える力が弱いと言うことでもありますので、その点で故障しやすかった可能性はありますね」

     テイオーが現役のおよそ20年前、テイオー自身に骨折が重なったこともあって、「走る馬ほど故障する」とよく言われたものだ。馬体の各パーツにかかる負担が、一般の馬より大きいためだと言われた。

     実際、管理していた松元省一調教師に次の談話がある。

    「ファンの方にしてみると、なぜあんなに何回も骨折したのかという思いは当然あるでしょうね。(中略)しかしそれは、仕方のない面もあったんです。テイオーの走り方に、その原因があるんですね。普通の馬とは違って、前の脚が肩のあたりまで上がるテイオーのフォームは、それだけ脚にかかる衝撃も大きいんです」

     たしかにテイオーは雄大なフットワークを誇った。それゆえ、「ボクシングのハードパンチャーに拳の怪我が多いのと同じ」と松元調教師は分析している。

     また、岡部騎手はこう話している。

    「乗り心地がよすぎる……というか、ちょっとフワフワしすぎているというのかな。もっと重たい部分が出てくるといいなァと思った」

     さらに田原成貴騎手の言葉である。

    「馬に乗ったとき、普通なら膝や腰に伝わってくる衝撃が、テイオーの場合は球節、飛節ですべて抜けてしまうんです。サスペンションが優れている、というのかな。とにかく乗り味の素晴らしい馬でした」

     これらの談話には、先の岡田氏の指摘に通じる部分がたしかに存在する。

     岡田氏にはもう一つ、トウカイテイオーがどうして名馬たり得たか、競走馬としての本質についても語ってもらった。

    「体質がふにゃふにゃっとしてますから、ほかの馬より繋ぎが沈み込んで、地面に長く作用します。そして、また繋ぎがグーッと起きてくるわけですけども、ただ柔らかいだけの馬は、そこからギュンと収縮できないんですよ。ところがトウカイテイオーの筋肉は繊細で、収縮力が強いから、伸ばせばいくらでも伸びるし、その両端を放したら、バチーンと縮こまることのできるタイプなんです。だから、あんなにもストライドを伸ばせたし、元に戻るのも早かったんですね。トウカイテイオーは、ストライドの伸びでスピードを稼いだ名馬でした。サンデー系が日本に入ってくる前で言えば、珍しいほど優秀な体質の持ち主でしたよね」

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