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story 未来に語り継ぎたい名馬物語

    【JRA】

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    あの“ラストラン“で
    オグリキャップが問うたもの

     しかし最後の最後になって、オグリキャップファンは、辛い現実と向き合うことになる。90年秋。天皇賞6着、ジャパンカップ11着。それまで2走連続で連対を外したことのなかった馬が、掲示板さえ連続で外してしまった。この結果を、競馬ファンは各自の中で解釈し、総括しなければならなかった。

     ダメになったアイドルは捨てて、新しいアイドルを探せばいいと割り切った者もいただろう。気持ちのうえではオグリキャップを見捨てられずにいるものの、馬券のうえでは支持できなかった者もいただろう。あるいは、最後まで応援する、その結果として賭けた金を失うくらいなんでもないと、心に決めた者もいたに違いない。

     ファンが戸惑いながら見つめた90年有馬記念に、オグリキャップは勝った。大敗の後だからこそ劇的であったこの勝利は、同時に個々のファンのその後を決めたのではないだろうか。これはあくまで筆者個人の考えに過ぎないが、そのように思えてならない。

     レース後の中山競馬場は、オグリコールに包まれた。しかしレース前は、その声の主がすべてオグリキャップを支持していたわけではないのだ。これは責めているわけではなく、4番人気、5・5倍という数字からも当然の事実なのである。

     オグリキャップを堂々信じ続け、堂々嬉し泣きする権利を得た者は、その後もかなりの割合で競馬ファンであり続けたのではと想像する。逆にオグリキャップを見捨てた場合でも、良心の呵責と向き合い、競馬の難しさを自覚した者はより強い競馬ファンになれたかもしれない。

     一方でバブル気質のこの時代には、無邪気にオグリキャップを支持し、無邪気に見捨て、それでいて無邪気にオグリコールを叫ぶようなことも、ある種普通の行為であった。その層は、ブームやムードとともに消えてしまったのではないか。これは検証しようのないことだが、そんな風に思うのだ。

     皆がブームの象徴として祭り上げたオグリキャップは、最後の最後でファンを試した。信じ続けた者と、試されたことに気付いた者が競馬に残り、試されたことにさえ気付かなかった者は時間とともに消えた。それが筆者の解釈であり、仮説である。

     仮にこの仮説が間違っていたとしても、「オグリキャップを知る世代のいま」というのは興味深いテーマだ。

     90年有馬記念を20歳で見ていた観客でさえ、いま45歳。当時のブームを担った「若者」はアラウンドフィフティーになっている。

     オグリキャップの引退直後から日本経済は「失われた20年」に入り、オグリキャップ自身も種牡馬としては成功できなかった。オグリキャップが走っていた頃のムード、ハレの日が延々と続くような気分はどこにもない。

     それでも20年、競馬ファンであり続けている人々は確実に存在する。その人たちにとってオグリキャップ以降の20年はどのようなものだったのだろうか。そしてその20年に対して、オグリキャップと過ごした日々は、どのように影響してきたのだろうか。

    【JRA】

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    オグリキャップ OGURI CAP

    1985年3月27日生 牡 芦毛

    ダンシングキャップ
    ホワイトナルビー(父シルバーシャーク)
    馬主
    小栗孝一氏→佐橋五十雄氏→近藤俊典氏
    調教師
    鷲見昌勇(笠松)→瀬戸口勉(栗東)
    生産者
    稲葉不奈男氏(北海道・三石町)
    通算成績
    32戦22勝(うち地方12戦10勝)
    総収得賞金
    9億1251万2000円(うち地方2281万円)
    主な勝ち鞍
    88・90有馬記念(GⅠ)/90安田記念(GⅠ)/89マイルチャンピオンシップ(GⅠ)/88・89毎日王冠(GⅡ) 88高松宮杯(GⅡ)/88ニュージーランドT4歳S(GⅡ)/89オールカマー(GⅢ)/88京都4歳特別(GⅢ)/88毎日杯(GⅢ) 88ペガサスS(GⅢ)
    表彰歴等
    顕彰馬(91年選出)
    JRA賞受賞歴
    88最優秀旧4歳牡馬/89特別賞/90年度代表馬、最優秀旧5歳以上牡馬

    2015年5月号掲載

    須田 鷹雄 TAKAO SUDA

    1970年生まれ、東京都出身。東京大学経済学部在学中の1990年に別冊宝島『競馬ダントツ読本』でライターデビュー。JR東日本入社を経て、96年の退社後は競馬ライターとして連載や執筆活動のほか、テレビ、ラジオにも出演。競馬番組や格闘技番組の放送作家を務めるなど幅広い分野で活動している。

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